『まるでタイムカプセルのような「椿餅」』
こんにちは。「毎日が和菓子日和」和菓子ライフナビゲーター、デザイナーの梅の実です。
「椿餅」をご存じでしょうか。
「椿餅」は春の季語だそうですが、気候的には、冬と春の両方を感じる2月頃に多くみかける和菓子です。
毎年、「椿餅」を楽しみにしている、和菓子好きさんもいらっしゃると思います。しかし、同じように葉っぱを用いた「柏餅」や「桜餅」に比べると、まだまだ知られていません。
今回は「季節を愉しむ和菓子・早春編『椿餅』」をコラムとイラストでご紹介します。
椿餅とは
「椿餅」は、冬の終わりから、春のはじまりにかけてつくられる和菓子のひとつです。餡を包んだお餅を、椿の葉で挟んでおり、「つばきもち」または「つばいもち」、「つばいもちひ」などと呼ばれます。
この「椿餅」。なんと、紫式部の源氏物語の一場面に登場し、日本最古の餅菓子ともいわれています。当時との違いはあるでしょうが、いにしえの平安貴族たちが食べたものを、今、味わえるなんて、本当にすごいことですね。まるで、タイムカプセルのようだなぁと思いました。
椿餅を食べよう
京菓子であるため、主に京都の老舗和菓子店で販売されてきましたが、最近では、関東やそのほかの地域でも、京都で修行されたご主人のお店などで、見かけることが増えてきたのが嬉しいです。
椿餅の餅
「椿餅」の生地は、道明寺製(蒸したもち米を乾燥し、細かくした道明寺粉でつくった御菓子)ものが中心ですが、羽二重餅でつくられていることもあります。
道明寺製の「椿餅」は、粒感があり、もちもちとした美味しさがたまりません。一方、やわらかな羽二重餅を用いた「椿餅」の真っ白な美しさや美味しさも見逃せません。
また、道明寺製の場合、肉桂(ニッキ、シナモン)を混ぜこんで香りづけをしたものも多く、よい香りを愉しめます。
椿餅の葉
「椿餅」を食べたら、ぜひ、椿の葉っぱにも注目してみてください。葉の向き(表裏)には、お店によって違いがあります。どういった向きで挟むのか…ここにも、作り手の想いが隠れているように思います。
つくるお店それぞれの、あじわいを愉しんでみましょう。
椿餅のご紹介
今までに味わった「椿餅」のうち、いくつかをご紹介します。
*肉桂(シナモン、ニッキ)の表記は、原則としてお店の説明に合わせています
*販売有無や内容(素材、製法、意匠など)が、年により異なる場合があります。何卒ご了承ください
東京・文京「和菓子司 一炉庵」さん
東京の老舗の名店「一炉庵」さん。道明寺製。やわらかでさっぱりとした“こしあん”入り。葉の向きは、表(濃い方)が上を向いています。
「とらや」さん
500年の歴史がある老舗「とらや」さん。肉桂を混ぜた、道明寺製。例年、販売されるものは、茶色のお餅に“こしあん”入り。葉の向きは、表(濃い方)が、それぞれ内側を向いています。
このイラストの「椿餅」は、2019年に味わった赤坂店限定のものです。かわいらしい薄紅色のお餅に、ほろほろとした“黄味餡”が入っていました。
東京・世田谷「まほろ堂 蒼月」さん
東京・世田谷のおしゃれな和菓子屋「まほろ堂蒼月」さん。シナモンを混ぜた道明寺製。春らしい色のお餅に、さっぱりとした“こしあん”入り。葉の向きは、表(濃い方)が上を向いています。珈琲、ワインにも合いそうです。
愛知・名古屋「川口屋」さん
名古屋の老舗の名店「川口屋」さん。私がはじめて味わった「椿餅」です。つやつやした羽二重餅。葉の緑と、羽二重餅の白のコントラストが、雪景色のようです。瑞々しい“こしあん”入り。葉の向きは、表(濃い方)が上を向いています。
京都「御菓子司 塩芳軒」さん
京都の老舗和菓子屋「塩芳軒」さん。ニッキを混ぜた道明寺製。優しい黄色のお餅に、瑞々しい“こしあん”入り。葉の向きは、表(濃い方)が、それぞれ外側を向いています。
凛としたたたずまいの「椿餅」。
和菓子屋さんで見つけたら、ぜひ、味わってみてくださいね。
毎日が和菓子日和!